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ハートに火をつけまくる件。〜ネタバレ御免『この世界の片隅に』クエスト⑤(たかしな記)
2017年 01月 09日 (月) 10:56 | 編集
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(本格的にネタバレ全開です。取り扱い要注意でお願いします)
 
最初に「あっ」と驚いたのは町山智浩氏がカブトムシが蜜をなめるシーンについて言及したのを読んだ時だった。人間が砂糖の配給やら闇市の値段やらで右往左往している時に、カブトムシは悠々と蜜を舐めている、と。そして昆虫が出てくる場面に注目しろ、と。2回目に劇場で見た時に昆虫たちが(わかりやすいアリのエピソードだけでなく)、いたるところに登場し、その場面で起きていることに対して様々な意図を持ったアクセントを添えていることを確認した。
 
それまで、昆虫が出てくる場面を昆虫に注目して観る、などということをしたことがなかったから、そういう「見方」に驚いたのである。なるほどなあ、ちょうちょやトンボも単なる田園風景を構成する要素じゃないんだ。いや、正確に言うと「単なる田園風景を構成する要素」が「その時も人間の社会の事情と並行してそこにあった」ということが、結果的に意味を持ってくるんだ。そう気づいて驚き、感心した。それを描いた監督にも、それに気づいた町山氏にも。
 
驚きはそれだけではなかった。次から次にカブトムシに匹敵する驚きが出現した。どういう順番でどういう風に驚いたかまでは忘れた。なので思いつくままにずらずら列挙する。
 
   *
 
最初の頃、応援をする気持ちはあるものの、まだそのための「ことば」が見つからず(つまり自分がなぜ「これはすごい体験だ!」と思ったのか、真価をまだつかみ損ねていた頃)、片渕須直監督のTwitterを追いかけ始めた。なぜなら『この世界の片隅に』という映画の中にどういう要素が入ってるのか、世界で最もよく把握しているのが監督本人だからだ。
 
その監督自身のコメントや、監督が「よくぞそこに言及してくれた」とリツイートすることや、場合によっては監督自身も「その視点は思いつかなかった」というポイントがそのTweetやリツイートを追うことで浮かび上がってくるだろうとぼくは考えたのだ。
 
まず目に付いたのは、「艦これ(艦隊これくしょん:戦艦を女性キャラクターに擬人化したゲーム・アニメ等のメディアミックス作品群)」や「ガルパン(ガールズ&パンツァー:戦車戦が大和撫子の嗜みという……自分でググってくださいな作品群)」のファンが食いついていることだった。もちろん「なぜだ?」とぼくは怪訝に思った。
 
彼らは戦艦や戦闘機などミリタリーなアイテムの描写を絶賛していた。「CGかと思ったら手書きであそこまで!」という具合に。それを読んでもぼくには具体的に何のことかさっぱりわからないのだが、とにかく戦艦や戦闘機に詳しい人たちが心を鷲掴みにされていることだけは理解できた。
 
すると、片渕監督がミリタリーなアイテムを描くことに長けているのは、過去にこれこれの作品を手がけているからだなどという解説が出てくる。あるいは戦闘機に詳しい人が「片渕監督は日本でもトップクラスの、戦闘機の塗装の研究家なのだ」みたいな話を始める。「へえ〜」「ほお〜」と感心するばかりである。
 
かと思うと、登場人物の名前が周期表に出てくる元素の名前にちなんでいるのではないかと指摘する人が出てくる(これについては、こうの史代さんが自らそのように説明しており、原作のファンの間ではよく知られたことらしい)。しかもその人は元素の特性を一つ一つ解説しながら、登場人物10数人のキャラクターと運命のようなものまで重ね合わせて解説してみせるのだ。驚嘆すべき内容だった。
 
そうかと思うと、服飾に詳しい人が、すずさんが身につけているものや、裁縫をしてつくるものについて解説をする。あるいはすずさんがつくる料理について解説をする。あるいは白いタンポポと黄色いタンポポのガクまで描き分けていることに言及する。あるいはポスターのすずさんの脇のバケツの中の「雑草」について、ひとつひとつ植物の名前を同定して「いまならおしゃれなカフェごはんの素材だ」なんてことを言う。以前に取り上げた「音響設計」についていかにすごいかを語る人も出てくる。アニメーションのテクニックとしてどんなことが行われているのか議論が始まる。
 
対空砲火の煙が色とりどりになる場面を、ぼくは「恐ろしいものなのに、それを美しいと感じてしまうすずさんの幻想」だと解釈していたのだが、Twitterのタイムラインを眺めていて、実際に、どの大砲の弾がどう着弾したか観測するために、爆煙に着色することが行われていたらしい。軍港の呉では複数の戦艦や、対空用の大砲があったため、あのように色とりどりになったのだという。
 
そういうことをさらっと、こともなげに解説してのける人が続々と登場してくる。ただもう驚きの連続である。
 
映画製作の裏話として、いまは失われた町を調べ上げて生き生きと描き出したことがよく語られる(いまは平和記念公園となっている一角に、冒頭のクリスマスに賑わう中島本町は実際にあって、目抜通りとして人々が集まって買い物をしていたのだ)。何度も広島・呉に足を運び、変わった風景や変わらない風景をロケハンしたこと。あるいは大和と武蔵が寄港していた日の天候を調べたこと、あるいは天井の板を外したタイミングなどの事実関係、あるいは楠公飯を実際につくって食べた話、とにかく徹底した調査の上で製作されたことが取り上げられる。
 
でもそういった「事実関係」だけでなく、ミリタリーなクラスタをうならせるディテール、昆虫をはじめ動植物に詳しいクラスタが驚喜する描き込み、服飾クラスタが分析したくなる描写、食のクラスタが食いつく素材やレシピなどが、非常にコアなレベルで表現されている。多種多様なクラスタが「ここまで描いている! これは自分にしかわからない。だからみんなに知らせなきゃ!」と反応するレベルで。『この世界の片隅に』について「語らずにいられない」思いにさせる要因の一つはここにもある。
 
先行して大ヒットした『シン・ゴジラ』も、政府内の会議、法律や手続き、自衛隊、軍事、生物学、防災、怪獣映画などさまざまなクラスタが反応したことが話題になったが、全く別なカテゴリではあるものの、『この世界の片隅に』においても幅広いクラスタが「この件は自分が言わねばみんな気付けないはずだ」と、ほとんど使命感に燃えて語り出す構図があったのだ。
 
すずさんと同世代の観客は見終わると同時に「あのままだった」「私の時はね」といつになく饒舌に語り始める。そして、監督のインタビューやティーチインに触れて、合唱しながら行進する女学生の運命、すずさんが自分自身に向けた怒りの爆発、割愛されたエピソードのキャラクターが一瞬だけ登場することなどを知ると、また劇場に足を運び確認したくなるし、確認すると語らずにいられなくなる。
 
そのようにして、驚くほど多岐に渡る人々が、それぞれの立場から「わたしにしかわからない、この映画の魅力」を語り始める。それはつまり「これは、わたしの映画だ」と感じているということなのだ。ぼくはそのことに圧倒される。「いい映画を見せてもらった」という他人事ではなく、「わたしの映画」として「わたしにしかできない説明」をしたくなるし、「わたしだけが気づいたであろう発見」について報告したくなるのだ。
 
長くなるので、今回はここまでにするが、もう一つ大事なのは、その全てを「すずさんが見聞きし、体験したこと」のレベルで描いているということだ。決して「軍部の戦略」や「戦況」や「当時の世界情勢」などは描かない。そんなものを描いてしまうと、とたんに「わたしの映画」ではなくなってしまうからだ。すずさんが体験し、見て聞いて考えたことが正しいか正しくないかなどということは全くどうでもいいことなのだ。別な主人公なら別な受け止め方をしただろうし、別な行動をとっただろう。肝心なのは、あのすずさんが、世界の片隅にいて、見て聞いて感じて考えたことと、ただ向き合うことなのだ。その結果、『この世界の片隅に』は非常に多くの人にとって「わたしの映画」になったのだ。でも、このことはまた項を改めて書くことにしよう。
 
【補足1】
ここに出てきた内容を知りたい人もいるだろうから、そのうち調べてこのブログにまとめて掲載する。どうぞお楽しみに。とりあえず、いますぐ見つかったものだけ貼っておく。
 
●町山智浩 『この世界の片隅に』徹底解説
 
●「この世界の片隅に」青葉が主人公!?

●「この世界の片隅に」の化学

●【映画の料理Vol.20】『この世界の片隅に』のすずさんの野草を使った工夫ご飯

●『この世界の片隅に』弾薬雑考その1(高角砲着色弾)
 
ほんとは、まだまだあるんですが、追い追い足していきます。

【補足2】
ここに書いたようなことを「1回では見切れなくらい情報量が多いからすごい」と言ってしまうこともできるのだけれど(そして、それは決して「間違い」ではないのだけれど)、そう言って片付けてしまうとずいぶん雑になってしまうのである。「『踊る大捜査線』は画面の中の情報量が多いから面白い」というのとは質的にも技術的にも別な話なのだ。
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