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ため息が出るような美しい瞬間の連続。 『ガラスの動物園』
2011年 11月 09日 (水) 08:02 | 編集
 11/8、急に思い立って静岡に公演を観に行く。

 東海道線で時間をかけて安上がりに行くつもりが、品川で電車の遅れを知り、涙を飲んで新幹線で移動することに。なんだかんだで行って帰って10時間の強行軍。でも大変な思いをしてでも観に行って良かった。

 作品は『ガラスの動物園』。非常に有名なのでタイトルは知っていたが実は内容を全く知らなかった。渡された中高生向けのパンフレットに解説もついていたが(そう。中高生鑑賞事業公演だったのだ)、あえて読まないことにした。まるっきり事前情報なしで、まるでテネシー・ウィリアムスの初演を観た人のような気分で観てみたらどうだろうと思ったからだ。

 それは、ため息が出るような美しい瞬間の連続だった。


(以下、公演内容・演出に触れるので、これから見る予定のある人は観劇後に読んでください)


 始まりからワクワクする。冒頭、制作スタッフの挨拶とかぶさるようにひょいと阿部が出て来る。いや、本当はトムなんだが、まあとにかく阿部が出て来る。制作スタッフに拍手したりする。そして語り始める。これはもう「阿部一徳の ちょっといい話 してあげる」だ。「ちょっといい話」で確立したスタイルをまんまと一般の演劇に持ち込んだのだ。この呼吸が分かる人は「ちょっといい話」を観た人以外にはなかなかいないだろうと思うと得意な気分になる。

 そして開幕。

 舞台美術と照明が文句なく素晴らしい。ぼくはこの夏、京都の町家で蚊帳を見てその質感や存在感、蚊帳越しに見える朧な姿に感動したのだが、その感動をここでもまた味わうことができた。ひょっとすると、とぼくは勝手に考える。演出家は日本で蚊帳を体験してこれだ!とひらめいたのではなかろうか。記憶の中の家族。くっきり覚えている部分と曖昧な部分と。音響効果にもはっとさせられる。エコーがかかる部分には記憶の周辺のような、現実と記憶を行き交うような不安定さを感じる。

 それから登場人物たち。とにかく異常な母。ハイテンションで押し付けがましくて独断専行でほとんど妖怪じみている。思い出の中のトムは語り手よりは幾分若くて(重心が高くて)軽い(呼吸が浅い)。内気であまりにも引っ込み思案な姉ブルーローズことローラはあまりにももろそうで弱々しげでそこには屈折したエロティシズムが感じられる。

 ぼくにとって初めて知るストーリーは極めて分かりやすく、入り込みやすい。これは素直な驚きだった。もっと難解で思わせぶりなものなのかと思っていたら、実に素直で平易でしかも急所をぴりりとおさえていて……といまさら天下の『ガラスの動物園』の脚本を褒めても仕方がない。それは既存の研究者に任せよう。

 選ばれた空間の大胆さを除けば、演出も奇をてらったところがない。けれど実は細部までていねいに計算された動きで構成されていて、結果「ダンスのように美しく動くリアルな人々」となっている。これはすごいことだ。ほとんど何もない抽象的な空間なので、文字通りのリアルな人間がいたら場は成立しない。でも、ごく日常的な動きを細部まで気を使ってつくり込むことで、見ていて何の違和感もなく自然に、でも美しい場面を描き続ける。押し付けがましさは一切ない。とても自然だ。でもありえないくらいに美しい。

 シャープに光る食卓。初めてガラスの動物園が浮かび上がる瞬間。現実と記憶の境。風。血を流す心臓のような照明器具。ロウソクの炎。美しく、はかなく、もろい。

 高校生たちはキスシーンでびくっとなった以外、驚くほど静かに見入っていた。目の前で起きていることが、こわれやすいもののように感じたからだろうか。こそりとでも音を立てると、すぐに壊れてしまいそうに繊細なことが行われていると感じたからだろうか。

 たったいまパンフレットを見て、これがかなり自伝的要素が強い話だと知って初めて納得する部分がある。なぜローラに対してこんなひどいことをするのだろう?と思っていたのだが、違った。現実はもっとひどかったのだ。実姉ローズの身に起こったことはもっと辛いできごとだった。それをテネシー・ウィリアムズは再構築して収まるべき場所(と彼が思った場所)におさめたのだ。
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